くるみの木から作った机

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トロンコの住む町から国際空港まで列車で数時間、そして飛行機で1日の半分をかけて日本に着きました。

 

飛行機に乗っている間中トロンコは原稿を書いていました。

小さなテーブルの上に原稿用紙を置いて万年筆を走らせます。

こういった原稿書きに一番良いのはペリカンM800のような大きな万年筆です。

長い時間乱暴に書いても平気な丈夫さがあるし、手が疲れない。

たくさん出るM800のインクを吸収の良い紙は受け止めてくれる。M800と原稿用紙は本当に相性がいいのです。

 

電車の中やカフェ、そして飛行機の中のような場所は意外と原稿書きに集中できるのです。

いつも外で仕事をしているトロンコでも、家に帰った時ホッとできる空間。そこで思いっきり仕事したり、趣味を楽しむことができる場所は必要だったし、めったにいない家での時間をより充実して過ごしたいと思っていました。

机を作りたいと以前にも思ったことがありましたが、自分にそんなことができるはずがないと思って、その考えを実行せずに心の隅に仕舞い込んでいました。

でも今なら作ることができると思いました。

 

旅の途中でボンクという友達と出会ってから、できないことなんて何もないと思うようになっていました。

昨年できないと思ったことが今年はできるといつも思えるような生き方をしたいと、ボンクを見ながら思ったのでした。

ボンクと机について話し合うための場所として神戸を選んだのは、あるペンショップの存在がありました。

 

神戸に来るといつも立ち寄るペンショップがあって、ボンクもそのペンショップを訪ねたことがあると言っていましたので、そのお店で待ち合わせることにしたのでした。

ペンショップには女店主がいて、その人から二人は子供のように扱われてしまいますが、いつも会いたくなる。でもその話はまた今度。

 

その店に来るお客様も、書くことやその周りのことにこだわりを持っている人たちばかりなので、ぜひその人たちに机の話を聞きたいと思いました。

 

ペンショップで久し振りに再会した二人は、すぐに机の話を始めました。

その机に向かうとクリエイティブな気持ちになれる、趣味を楽しみことができる机についての二人の議論に周りにいたペンショップのお客様も巻き込まれました。

様々なアイデアが出て、二人はその人たちの机や書斎の話を聞いてみました。

そして二人はたくさんの書斎の平面図とアイデアを手に入れました。

机のアイデア集めに皆さんが協力してくれたことに二人はとても感謝しましたし、自分たちが作りたい机のイメージがかなりまとまってきました。

 

二人の机に関する夢のような話は尽きることがなく、いつまでも楽しそうに話していました。

そんな二人の様子を見ていた女店主がしびれを切らして「夢ばかり言い合っていないで、この木工家を訪ねてみなさい。」と、ある木工家の連絡先を教えてくれました。

 

二人が訪ねた木工家は女店主が親しくしている友達でしたが、それだけでは簡単に机を作ってくれそうにはありませんでした。

自分たちの本気の気持ちを木工家に理解してもらいたいという一心で、机を作りたいということを一生懸命に話しました。

「ちょうど胡桃が生らなくなったくるみの木を切るんだ。」

木工家は二人の熱意に根負けするように、急に穏やかな表情になって切り出しました。

山にとても大きなウォールナットがあって、ある年から実が生らなくなったので切り倒すことになったというのです。

山は放っておくとどんどん荒れていってしまうので、山に住む人はそうやって山を健康な状態に保っているのです。

 

ウォールナットは安定していて、狂いも少ないので家具に最も適した素材のひとつです。

1本の木からひとつの家具の全てを作るのが木工家の美学であり、その家具を最も美しく、歪みなく長持ちさせる工夫でもあるのです。

「あの大きさなら、二人の机を両方とも作ることができる。」

木工家は二人の言う仕事や趣味に打ち込むことができる、家での時間をより上質なものにしてくれる机の製作に取り掛かってくれることになりました。

 

季節が変わって3ヵ月後、トロンコの家に机が届きました。

 

この3ヶ月間木工家から机の製作過程や提案を伝える手紙が何通も届いていて、木工家が自分のアイデアを盛り込みながら、いかに熱心に机を作ってくれていたかが、その文面から伝わってきました。

 

木工家は実直で自分の仕事に厳しい人なので、その人に机を作ってもらうことができて本当に良かったと思っていましたので、机が届くのを楽しみにしていました。

木について語り出すと止らない木工家を見て、トロンコは自分も仕事にもっとのめりこみたいと思いましたし、木の良さを伝えるために日常の生活の中で使えるものを良い材料で作るという木工家の考え方に大いに感銘を受けていました。

木工家はその仕事でいくらお金が儲かるといったことにとても疎く、無頓着でした。

いつもオレンジのシャツを着ていましたが、その顔はいつも幸せそうで、みんなから感謝されていました。

木工家は「木に正直でないといけない」と言っていました。

目の前にある木が最も良く、美しい形にするのが木への誠意であり、変に繕ったり、嘘をいわないことがお客様への正直さで、それを信念としていました。

でも木工家は、自分が木工という仕事で長く生きていくためにはそれが一番大切なことなのだと知っていたのです。

 

机は本当に、素晴らしいものでした。全ての部品が同じ木からできているため色も統一されていて、木目の感じに全く不自然さがない。

そして同じ木から生まれているので、全ての部分が同じようにエージングしてもっと風格を湛えるのだろうと予想できました。

机を置きたい場所のサイズを伝えていましたので、ピッタリと置くことができました。

仕事机と遊び机の2つの部分に分かれていて、仕事机は作業がしやすいようにシンプルな平机を心がけて作られていました。

天板から見るとシンプルな姿ですが、コンピューターのコードを通す穴が設けられていて、天板の下にはアダプターを収納するスペースや棚が設えてあり、細やかな気配りで作られていることが分かりました。

 

遊び机は圧巻でした。

木の無垢だと思った天板はひっくり返り上質な革を貼った天板に変身する仕掛けになっていました。

大切な趣味のものを柔らかい革の上で扱いたいと思う人は多いと思います。

トロンコもたくさんある、趣味と仕事の道具である万年筆をこの革の上で触っていたいと思いました。

それにしてもその想いを叶えるためにこんな大掛かりな仕掛けを作るなんて。木工家の遊び心には驚きました。

 

ひっくり返り天板の下、大きな収納スペースになっていました。

大切な万年筆を秘密基地のように隠しておける場所が欲しいと伝えましたが、木工家は万年筆が本当にたくさん入るスペースをこの天板の下に用意してくれていたのです。

机には手紙が添えられていました。「この机がもっと楽しくなる机上用品をこれから作るから、お楽しみに」。

木工家の満面の笑顔が思い出されました。

 

きっとボンクの元にも机は届いただろうな。

 

 

 

くるみの木の下で.jpg 

 

 

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このページは、旅の扉 writing lab blog 管理人が2011年12月13日 12:57に書いたブログ記事です。

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