トロンコ靴を誂える・2

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トロンコにとって靴はお洒落のアイテムでも、歩行を快適にする健康のためのものでもありません。
トロンコにとって靴とは「言葉を探すための道具」に近いものでした。
仕事をする前に頭の中でこれから書く文章について何度も考えますが、その文章の核となる部分は家の中で机に向かって考えるよりも、外に出て歩きながら考える方が見つかりやすいと経験的に思っていました。

歩きながら自分の頭の中にある言葉を探して、キーワードが見つかると忘れないようにメモノートに書き留めます。
時には立ったまま延々と文章を書き始めることもよくありますし、言葉が見つかるまで歩きまわりますので、トロンコにとって靴とは言葉を探すための道具なのです。
多くの人が好むようなカッコいい先の尖った靴や細い靴よりも、足にピッタリ合って、何も気にせずに歩ける靴が必要なのです。

ウイングチップにメダリオンがたくさん入っているものを好むのも、デザイン的な好みでもありますが、傷などがあまり気にならないという理由もありました。
トロンコにとってお金をかけて揃える全てのものは、自分の仕事を助けてくれる道具のようなところがあり、靴もその例外でないというところでしょうか。

クアドリフォリオの工房で仮履きをした時、トロンコは今まで履いていた靴と全く違うその履き心地に驚きました。
今まで良いと思っていた靴が色あせて、つまらなく思えるほどクアドリフォリオの靴はトロンコの心に入り込みました。

足を包み込むようなという月並みな言葉しか靴に関しては持ち合わせていませんが、これなら、歩きながらあるいは立ったまま言葉を探すことに集中できると思いました。
靴が出来上がったという連絡をクアドリフォリオのご主人からもらった時、できればボンクも一緒に来て欲しいと言われました。
トロンコは出来たばかりの靴をボンクにも見てもらいたいと思っていましたので、ボンクを誘ってフィレンツェの飛行場で待ち合わせて、久しぶりの再会を喜びながらクアドリフォリオの工房を訪れました。

クアドリフォリオのご主人がトロンコの靴を木箱から出して見せてくれた時、その美しさに二人とも言葉が出ませんでした。
でもそれと同時にトロンコは少し心配になりました。
こんなきれいな靴が自分の足に合って、言葉を探すためのものになるのだろうか。
でも履いてみた感じは仮履きの時の印象と同じ感じ。
靴の中に遊びが全くないので、靴の中で足が動いたり足の出っ張りが当たるようなところもないのでとても快適に履いていられるのでした。


これは万年筆やノートと同じくらい、でもトロンコにとってはそれ以上に言葉を探すための道具になると思いました。
トロンコは言葉を探すため、考えるために最大限の努力をしたいと思っていましたし、それなりの投資もしたいと思っていました。
自分に良い作用をもたらすと思われる本を読むことも、思考を途断することなくそれを紙に綴ることのできる万年筆も、それを記録するノートも何もかも思考して、言葉を見つけて、文章を書くということに向かわせるためのものでした。

トロンコを仕事に向かわせるものに靴が加わったことを喜んで、ボンクが羨望の眼差しで見ていると、革小物の職人であるクアドリフォリオ夫人がシガーケース型のペンケースを二人に見せてくれました。

ボンクも一緒に来て欲しいと言ったのはこのペンケースが出来たからで、ずっと前に二人がフィレンツェを訪れて作って欲しいと言ったペンケースをクアドリフォリオ夫人は時間をかけながら作ってくれていたのでした。


さて、どんな風に仕上がったのでしょうか?

この続きは、また次回。

 

 

靴をあつらえる2.jpg

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このページは、旅の扉 writing lab blog 管理人が2012年6月12日 11:55に書いたブログ記事です。

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