トロンコは色々な国を廻って何か自分がおもしろいと思えるものを探して歩きました。
しかしふと気付いたのは、トロンコが探していたのはおもしろいものではなく、自分自身の居場所でした。
トロンコは、旅先でしか何かを見つけることはできないと思って、いつも旅に出ていましたが、何かを見つけたと思ったことはありませんでした。
「どこに行けば自分の何かを見つけることができるのだろう」とあてもなく歩き回って、疲れた体を知らない街の宿で休める日々を送っていたのです。
確かにこうやって旅をしていると、何かしているような気になって、毎日が充実しているように思えて気がまぎれました。
旅をしているという自分の行為について満足して、どうして旅をするのかということをなるべく考えずにいました。
でもとうとう、そうしていても自分自身をごまかすことができなくなりました。
旅に出ていろんなものを見ることは楽しい。でも楽しいだけで、同じ場所に根差して、毎日を積み重ねていく暮らしとは違います。
こうやって一生フワフワと旅をすることが目的になっている生活は送りたくないと思いました。
それから旅の目的は永住できる場所を探すということになりました。
目的が定まったトロンコは、いつも使っている旅の計画を書くダイアリーに、永住場所を探すということとその期限を書きました。
トロンコにはダイアリーのない生活は考えられず、それは地図を持たずに旅に出るようなものなので、ダイアリーはいつも鞄の中に入れて持ち歩いていました。
旅の目的が定まると、それはすぐに見つかりました。
国中部の小高い丘が延々と続く緩やかな地形の地方。
そこにある小さな村では人々がそれぞれの暮らしを守って生きている。
それぞれが自分の役割を全うして、多くを求めず、慎ましいけれど自分に与えれたものに満足している。
この国の人みんながこんな風に暮らすことができたらと思うし、人が安心して自分の暮らしを何にも脅かされずに営んでいける世の中であってほしいと思いました。
トロンコは、その小さな村がすごく気に入ったし、村の人たちもとても親切にしてくれたので、その村の近くに住みたいと思いました。
でも、よそ者である自分がいきなり村の人たちの静かな暮らしの中に割り込むのは良くないと思い、村の人の邪魔にならないような、村から森を抜けた丘に住むことにしました。
住みたいと思う場所が見つかって、家を作ろうと思うけれど、どうやったら家が出来上がるのか分かりません。
でもこんなところに家を作ろうとしている自分は、周りから見たらおかしいような気がして、一人で家を作り始めることにしました。
岩場からスレートや天然のレンガ、石などを持ってきて積み重ね始めました。
何日も何日も、丁寧に岩場から持ってきた素材を積み重ねていきます。
するとある日、嵐が来ました。
嵐は一晩中続いて、積み上げたものを全て崩してしまったのです。
トロンコは悲しくなり、こんな所に家を作ろうとしたことを後悔しました。
でも家がないと、また今までの旅の生活をすることになってしまう。
少し恥ずかしいけれど、勇気を出して、村の大工さんを訪ねて家の作り方を教えてもらうことにしました。
トロンコはこの場所にずっと住みたいとことを大工さんに伝えました。
トロンコの思いがが本気だということが分かると、大工さんは家作りを手伝うことを約束してくれて、すぐに家作りに取り掛かりました。
大工さんが手伝ってくれるようになって、家はすごいスピードで出来上がっていきました。
そしてすごくしっかりした家が何もなかった丘に出来上がりました。
家にはちゃんと暖炉があって、この前にソファを置くと暖かく本を読んだり、書き物をしたりすることができる。
トロンコは自分が信念を持ってしようと思ったことを、人からどう思われるかなんて考えてはいけないこと、情熱を持っていれば誰かが賛同してくれることもあるということを家作りで知ったのでした。
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