トロンコのお話の最近のブログ記事

もちろんこれからも続いていく

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 トロンコとボンクは女将さんのいるペンショップを訪ねるために神戸の街にやってきました。 
いつも自分たちが生活している街や家と違う、いつでも行くことができるこのペンショップのような心の故郷がきっと誰にでも必要で、たまに行くと前に来た時に時間が戻るような感じ、この場所だけでの時間があるような気がしていました。
大人になってそれなりに年齢を重ねて仕事をするようになったら、人から怒られることがなくなってしまいます。
大人なので怒られなくても自分のするべきことをしなくてはならないですが、でもたまに誰かに怒られたい、子供の頃お母さんに小言を言われたように厳しくも優しい言葉を掛けてもらいたいと思うものですが、ここでは女将さんがそのように声をかけてくれます。
ペンショップでその雰囲気を楽しみながら、お小言を言う女将さんと話しているとクアドリフォリオのご夫妻が店に入ってきました。

4人は再会を喜び合いながら、お互いの近況を話しました。
トロンコはクアドリフォリオのご主人が作ってくれた靴を履いているか、鞄の中に入れているかして、いつも身近に置いて大切にしていました。履いて半年ほど経った靴をご主人に見せるとご主人は大事にされている靴を見て、とても喜んでくれました。
昨年出会ったばかりのクアドリフォリオのご夫妻と今年はとても長い時間をともに過ごしたとトロンコとボンクは振り返りました。
二人のフィレンツェの工房にも何度も行って、シガーケース型ペンケース「SOLO」やメモノートの表紙、ボトルインクケース「CADDY」など、独特の世界観のある革製品を一緒に作り、それらはトロンコとボンクで「ノベリスト(小説家)のシリーズ」と呼んでいました。小説家の机上を彩るに相応しい、重厚で、見たり触ったりするだけでちょっと一息つけるような存在のものになりました。
クアドリフォリオの二人とはもっと長い時間を共にして、また何かを作りたいと思っています。
次にお店に入ってきたのは、一匹狼の革職人さんでした。

ボンクは一匹狼の革職人さんに頼んでダイアリーカバーを作ってもらっていて、その上品で美しい出来栄えにトロンコも驚いていました。
他の作品もどれも繊細な美しさを持っていましたので、二人はもっといろいろなものをこの一匹狼の革職人さんに作ってもらいたいと思っていました。
実は月一回は会っている木工家もやってきました。

月一回会っているので、久しぶりな感じはしないけれど、会うたびに何か新しいネタを持っている面白い木工家で、トロンコもボンクも彼の新しいネタを楽しみにしていました。
今年も彼は様々な木製品を世の中に出していて、本にも紹介されたペンスタンド兼トレイ「パラーレ」などもありました。
常に自分の作品をより良いものにしたいと向上心を持ち続けている姿勢、ひたすら木の杢の良さを追究するブレない姿勢にトロンコは自分にないものをいつも見ています。

メモノート、革封筒、SYO-HIなどを作ってくれた革屋さんも来てくれました。

トロンコとボンクの思い付きに、今年一年本当によく付き合ってくれたと二人は感謝しました。
メモノートの中身を作ってくれている印刷会社の人も入って来ました。
印刷のヤレ紙を提供してくれて、それがメモノートの始まりでしたが、原稿用紙罫のメモノートの中身でも辛抱強く協力してくれました。

こうやって今年年、二人が関わった人たちがペンショップに集まりました。
今日は少しだけ早いクリスマスパーティー兼、皆が好きな打ち合わせでした。
こうやって集まって、皆が大好きな仕事の話をする。
でも集まったみんなには仕事という意識はなく、何を作るかという話から脱線して、違うところで盛り上がったりしている。
そんな時は、ペンショップの女将さんが皆をたしなめることも。みんなそんなやり取りも楽しんでいて、夜が更けて欲しくないと皆が思っていました。

 
神戸のこの地で、トロンコとボンクの旅はいったん終わります。
この地で二人はまた何か、物作りをしていくのだと思います。
次二人にいつ会えるか分からないけれど、二人の物作りはまだまだ始まったばかりで、これからも続いていきます。

 

*トロンコとボンクのお話は今回でおしまいです。次回は来年1月8日(火)に、新たな試みでスタートをします。ぜひ引き続きご覧下さい。

 

 

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人とのつながり

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ボンクに連れられて会いに行った一匹狼の革職人さんは、とても無口でトロンコも最初少し戸惑いました。
でも時間を共にするうちに特に言葉を交わさなくてもいいのではないかと思うようになりました。
お互い多くの言葉で自己紹介などし合うよりも、一緒にいる空気感などの雰囲気で感じが良く感じられるか不愉快か分かります。
相手の言った言葉によって合うか合わないか判断するよりも、自分の動物的(?)なカンを信じた方がいい。

それによると一匹狼の革職人さんは一緒に何かやりたい、繋がりを持っていたい人ということになります。
その後何度も会う機会があって、話すこともありましたが、その態度から一匹狼の革職人さんが誠実に二人に向き合おうとしてくれていることがはっきりと分かりました。
商品は、まだボンクが革小物をひとつ作ってもらっただけですが、これからも何かやっていきたいと二人は思っています。

一匹狼の革職人さんに会ったことで、ボンクが初めてトロンコの家を訪ねてきた時のことを思い出しました。
ボンクはトロンコみたいにいつも黙っている方ではなく、話題を投げかけたりして、会話を弾ませることができました。
相手のトーンに合わせて、相手の気持ちを楽にさせることができる。
トロンコには、ボンクがとても洗練されていて、世慣れた感じに見え、ボンクがなぜトロンコを理想の物作りをする相手として、自分を誘ったのか、そしてどうやってトロンコを知り、訪ねて来たのか分かりませんでした。
ボンクのこともいろいろ知りたいと思いました。
それは警戒心などではなく、ただの好奇心でした。
でも初対面で、トロンコはボンクに良い印象を持っていましたし、どこかで会ったような感覚を感じていましたので、何も聞かくなくてもいいとも思っていました。
あれこれ聞くのもつまらないような、野暮なような気がしました。
直感で、合うと思ったのだからそれでいいではないかと思ったのです。
ボンクの身の上や、今どうやって暮らしているかなど、ボンクが自分で話始めたらただ聞く、でもそれを聞いたからといって何も変わらない。

ただ合って一緒に何かしていたいからボンクといる、一匹狼の革職人さんもそんな存在になったらいいと思う。
ボンクと離れている時は一人で物を書いているトロンコで、皆それぞれの仕事があって、その仕事で生きている。


ボンクもそんなみんなもただ愛おしく想うトロンコでした。

 

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ものづくりの理想

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ボンクと一緒に尾道のバーに居合わせたお客様が見せてくれた大ブランドのオーダー品の品々から、老舗ブランドの顧客第一主義という誇りのある考え方が伝わってきました。
顧客が求めるものに最高のセンスと技術を持ってとことん応えたいという、純粋な物作りの情熱がそれらの品々には宿っているようでした。
顧客第一主義は物を作って売っている会社なら当たり前にしているはずでした。
しかし、最近の世のブランドや物作りの会社の多くの在り方にトロンコは疑問に思っていました。
顧客に情熱が伝わる良いものを届けたいという考えよりも、いくらの利益を出すかということに重きを置いた物作りがされていないだろうか。
利益を出さないと会社は続いていくことができませんが、その利益がその会社が作るものを買ってくれる人の幸せとそれを提供することを幸せとする作り手以外の人、株主のためのものであれば、最高のものを作るという目的と反対方向に努力が向いてしまうこともあるのではないかと思うのです。
これは多くの物作りの会社が直面していて、抱えているジレンマなのだと思いました。
でもこれを続けていると、皆がブランド化した物作り企業のものを買わなくなってしまうのではないだろうか。
でも多くの会社は以前の物作りに戻ることができないところまできている。
トロンコは、自分たちはこうならないようにしようと思いました。
自分たちが欲しいものを作っているWRITING LAB.は、顧客第一主義とは違うかもしれませんが、自分たちが作るもので多くの人たちが幸せになってくれたらといつも思っています。
幸せになって欲しいのは、トロンコとボンクの二人と一緒に仕事をしてくれている職人さんたちもです。
こんなことは恥ずかしくて本人たちに絶対に言えないけれど、例えば一人で家にいる時にトロンコは皆のホームページやブログをまわって見ます。
今彼らが何を考えて、何をしているのかを見ていると、愛おしさがこみ上げてくるのです。
二人に関わってくれる人全てに幸せになってもらいたい。
彼らはトロンコとボンクにとってスーパースターですが、世界的に見るとまだ名前が知られていない存在です。
そんな彼らと自分たちが良いものを世の中に送り出して、有名な物作り企業とは違うロマンのあるものを作りたい。
そして、それに結果がついてきて一緒に幸せになりたいと思うのです。

尾道から東に向かう汽車の中でトロンコはボンクから、実はこういうものを作ってみたのだと、新しい革製品と新しく知り合った一匹狼の革職人さんについて教えてもらいました。
また一人、一緒に幸せになりたいと思う仲間が増えそうでした。

 

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ふくらんだ日記帳

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自分の仕事が好きで、いつも仕事のことについて考えている人は文房具が好きな人が多いとトロンコは思っています。

もちろんトロンコ自身がそうですし、ボンクや木工家などの周りにいる人たちも自分の仕事を良くしたいと思っているので、仕事の血液となる本と同じように、文房具について考えています。

 

本が仕事に必要な知識や考え方を得られるものだとすると、文房具は仕事をより楽しくしてくれるものだと思い、行った先々で文房具店を見つけるとつい入って、自分の仕事において改善したいと思っていることの助けとなるものを探しています。

 

いつも行く港町のバーには、トロンコと同じように文房具好きな人が集まります。

大学の先生、作家、俳優、音楽家、経営者、会社員、仕事は様々ですが、皆文房具へのこだわりは相当なもの。

トロンコは、そのバーに行くときは夜遅くまで議論が白熱して帰りが遅くなってもいいように、締め切りがあるものは終わらせておいて、予定も完全に空けておくようにしています。

 

夕方、バーに行くと既に何人かの知っている人がいて、チェリストが最近手に入れた長方形の断面の芯のシャープペンシルについて語っていました。

それはマークシートを一書きで塗れるように工夫されたもので、学生用のとても安価で買うことができるものとのこと。

チェリストはそのシャープペンシルは楽譜を書くのにとても便利だと言っていました。

長辺を五線紙に垂直にして、縦線は細く、横線を太く書くようにすると、ミュージック用の万年筆と同じように使うことができます。

飄々とした彼がそういう学童文具について熱く語るのを見ていて、皆が微笑ましい気持ちになりました。

 

その夜、トロンコはボンクと一緒にクアドリフォリオのご夫妻に作ってもらったペンケースSOLOを皆に紹介しました。

作りのユニークさ、色艶の美しさなど、今までの万年筆を入れるペンケースになかったものを備えているSOLOに皆大いに共感してくれて、大好評。

全員の分を作ることになりました。

トロンコはクアドリフォリオのご夫妻に、革の色付け加工であるパティーヌの色見本をもらっていたので、それを皆に見てもらって、一人ずつ色を決めて行きました。

10色ものフィレンツェのセンスによる色合いは、どれもムラのあるアンティークぽさと透明感を併せ持っています。

それぞれ個性に合う色を悩みながら選ぶのは、とても楽しそう。

そんなみんなを見ているととても幸せな気持ちになり、このペンケースを作ってくれたクアドリフォリオのお二人に感謝しました。

 

このバーでの夜、トロンコが一番心動かされたのは、大学の先生の3年連用日記でした。

彼女は、日頃は持ち歩かないけれど、トロンコにそれを見せるためにわざわざ持ってきてくれたのでした。

3年前からつけ始め今年で終わるというその日記帳は、彼女らしいとてもしっかりとした文字で書かれていて、その時の覚書などメモの類、切り抜きなども貼られていて、3倍くらいの太さに膨らんでいて、ゴムバンドで留められていました。

まずトロンコが感心したのは、その日記帳の製本と装丁の丈夫さでした。

ページは全く外れていないどころか、買ったときのままの状態を保っていて、表紙も痛んでいない。

日本のライフというメーカーのものですが、そのメーカーの仕事に、派手さはないけれど誠実な実直さを感じました。

日記帳の仔細を見た後、彼女のこの日記帳に対した時間を想いました。

3年間、多分いろんなことがあったと思うし、いろんなことを考えたと思います。

研究者としての生活は日々努力の積み重ねの上に成り立っているので、辛いと想うこともあったと思います。

そういった想いが詰まっているその日記帳はとても尊いと思いました。

こういう想いを受け止めるには、ライフのような誠実な製品を作る会社でないと勤まらないのではないかと思います。

そのモノの良さは3年後にしか分らないけれど、その良さを知ると代わりとなるものはきっとありません。

大学の先生の日記帳を見ることができたことはいつまでも忘れないだろうと、トロンコは思いました。

 

夜が更けて、日付が変わりそうな時間、皆それぞれの家路につき始めました。

トロンコは帰りのローカル線の中、優しい気持ちで田園地帯の続く夜景を眺めていました。

 

 

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インクケースを作る

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トロンコとボンクは、シガーケース型ペンケース"SOLO"の出来栄えにとても満足していて、早く次のモノ作りに取り掛かりたいと思っていました。

実は二人は、ペンケース"SOLO"のアイデアをクアドリフォリオのご夫妻と話し合った時に、もうひとつのアイデアについても話していて、試作品の完成を待っているところだったのです。

 

"SOLO"を自分にも作って欲しいという話を、トロンコとボンクがそれぞれ聞いてくるので、ご夫妻は今年の夏たいそう忙しく働いていました。

二人はいつも8月を丸々バカンスに充ててカプリ島に行ったりしていましたが、今年は工房からほとんど外に出ることがなかったようです。

 

それでもご主人は真っ黒に焼けていたので聞いてみると、ご主人だけは何度かビーチに出掛けていたとのことで、それを聞いてトロンコとボンクはご主人らしくて嬉しくなりました。

モノも作って欲しいけれど、息抜きもしてもらいたいといつも思っていたからです。

 

ペンケース"SOLO"に続くトロンコとボンクのプロジェクトは、インクケースでした。

愛用している四つ葉のクローバー色のインクをスッポリとかっこ良く、面白く収めることが出来るケースを革で作ることができたら・・・。

トロンコとボンクのそういう無邪気な思い付きを、クアドリフォリオの二人は、とても良い感じで実現してくれるのは分かっていましたが、いつも試作品を見るまではドキドキしています。

 

色んな話をした後、ご主人が忘れていたとばかりに奥さんに合図をして、「それ」は出てきました。

ほぼ完璧な精度の八角形の箱が仕上がっていて、トロンコとボンクは何度も何度もふたを開け閉めしたり、手触りを確かめたりしました。

すごく良いものが出来上がって、トロンコもボンクもとても幸せな気分になりました。

普通はボトルインクをケースに入れたりはしないのかもしれませんが、本当にこだわって使っているものだから大切にしたいと思う。

そして、こういうものが自分の机の上にあればいいなというものをひとつずつ実現したいと思う。

トロンコとボンクはいつも面白いと思うことを探していて、このインクケースもそのひとつなのです。

 

しかし、ボンクの日本移住計画には、トロンコも大変驚きました。

でも、寅さんの映画の世界観を感じることができる日本に住みたいというボンクの気持ちも大いに分かるし、トロンコも魅力に感じています。

トロンコも日本移住について少し前向きに考えてみようかと思いました。

 

*WRITING LAB.オリジナルインクケース「CADDY」は、9月15(土)16(日)の、イル・クアドリフォリオのPen and message.でのイベントで発表致します。

 

 

 

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インド料理店での再会

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トロンコは本当に久し振りにボンクのホームタウン、ウエストニューヨークを訪ねました。

ある事情があって、街を離れることができないボンクにトロンコがニューヨークへ行くことを伝えた時、ボンクは驚きながらも喜んでくれました。

出会って間もない頃、トロンコがボンクのことをまだあまり知らない頃に訪ねただけで、それ以来この街に来ていませんでしたので、ボンクと会うのはいつも旅先で、トロンコは外の世界でのボンクしか知らなかったのだと思いました。

トロンコにはそういったものが備わっていませんが、外で会うボンクは外の顔を持っています。

それは華やかな世界で生きてきた人独特の持ち合わせている雰囲気で、人に会うことを仕事にしているトップの人が身に纏っているものです。

でもウエストニューヨークで会うボンクはとてもリラックスしていました。

かっこいいボンクもいいけれど、ホームタウンでのボンクはより愛おしい存在に感じます。

二人はヒンディー語でいっぱいのインド人街にある、ボンクがよく来るというインド料理屋さんに行きました。

白いご飯が好きなトロンコですが、インドカレーだけはナンで食べたいと思っています。

焼きたての熱くて触ることもできないようなナンに濃い、複雑な味のインドカレーをつけて食べるのがとても好きでした。

インド料理店でつきだしに出されるものは、いつも正体不明ですがたいてい笑えるくらい辛いものが多い。

つきだしのせいだけでなく、インド料理屋さんは訪れる人を笑顔にさせ、話を弾ませてくれるとトロンコはいつも思っています。

ドギツい色の内装、度を越して激しいダンスばかりのVTR、音楽、トロンコの感覚からはとても無愛想に見えるインド人の店員さん。

インド人の店員さんの愛想がいいインド料理屋さんは不味いというのは、トロンコの定説になっていて、インド料理屋さんは無愛想でないといけません。

でもそれは無愛想なのではなく、無駄な笑顔がないだけで、お客様に対してヘラヘラ笑顔でいる方が失礼だという文化の違いということも理解していますが。

数時間しか会うことができなかったけれど、トロンコはボンクの住むウエストニューヨークを訪ねて、また今まで以上に友情を深めることができて、本当に良かったと思いました。

ただ一緒にご飯を食べるということが、とても大切なことで、これからも用事がなくても、

(本当はとても大切な用事だけど)ボンクとご飯を食べるためだけにウエストニューヨークを訪ねたいと思いました。

 

 

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トロンコが踏み出したきっかけ

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今からずっと前、トロンコが真剣に人生について思い悩む若者だった頃、お母さんが病気になりました。
ドクターから余命を宣告されていて、日ごとに弱っていくお母さんを看ながら、トロンコはただなす術もなく話し相手になるために傍にいるだけでした。

お母さんにしてあげられることは何なのかトロンコは考えていましたが、本当に何も浮かばす、一人ではないのだと思ってもらえるようにただ傍にいるしかありませんでした。
強い痛み止めが必要になって、お母さんは正気と夢の間をウロウロしていたけれど、正気になった時にはトロンコに感謝の言葉をかけてくれましたし、トロンコが立派に育ったことを今更ながらも喜んでいました。
でも実際トロンコは自分がお母さんをガッカリさせてばかりで、言うことを聞かない、あまり良い息子ではないことも分かっていました。
でもその時もクヨクヨ考えてばかりで、何の行動も起こせませんでした。

それでもお母さんはトロンコのことを全然心配していなくて、何をしてでもたくましく生きて行ってくれると思っていました。
そんなふうに言葉を交わした後、間もなくしてお母さんは混沌とした意識の中で逝ってしまったけれど、最期にお母さんの傍にいることができて本当によかったと、この時のことを後から考えて思うのでした。
外の世界と一切の関わりを絶ってお母さんの傍にいたのはたった3ヶ月間だけれど、そうやって長い時間一緒にいたのは子供の頃以来で、トロンコにとって今も心の中にある大切な時間だったと思います。
それまで将来に対してただ漠然とした不安を持つだけで、何の行動もしていなかったトロンコはお母さんを見送った後、小さな一歩を踏み出そうと決心しました。


トロンコは子供頃から勉強は嫌いでしたが、本は好きで読んでいました。
お母さんはトロンコのそんなところはいつも褒めてくれました。
勉強やスポーツは苦手で、上手くできることなんてなかったけれど、本をよく読んでいたせいか作文など文章を書くことはとても好きで、上手だと言われることもありました。
文章を書く仕事をしたい。
トロンコが夢中になった本の作者たちのように、それを読む人が夢中になれるものを書きたいと子供の時から思っていましたし、自由に時間を使って、好きな場所に行って、誰にも指図されずに自分の力で生きる作家たちのライフスタイルにも憧れていました。
お母さんとの別れで、トロンコは何もせずにただクヨクヨ考える自分とお別れしようと思いました。


何もしないうちから考え込むのではなくまず行動しよう。そして、それから考えようと思うと、不思議なことにとても軽い気持ちになって、全てのことが大したことがないように思えるようになりました。

それからトロンコはブラリと初めての旅に出たのです。

 


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夏に想うこと

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夏は過去にいた人たちを想う季節だとトロンコは思っています。

おじいさんやおばあさん、伯父さん、伯母さん、お母さん、友達など、自分より先に死んでしまった人のことを思い出します。

それは義務感や何かの影響などではなく、魂がそう思わせているように感じます。

亡くなった人たちについて思い出すのと同時に、夏にはなぜか自分が見たはずもない、それほど昔のことではない戦争のことや、それで亡くなった人たちのことを想うのです。

トロンコはフランス沿岸部の戦場となった街を見て回り、ドーバー海峡を渡り空襲のあったイギリスの町も訪ねようと思いました。

フランス沿岸部にあるカレーの町を小高い丘から長い時間見ているうちに当時の光景が見えるような気がするのは、街にまだ情念のようなものが残っているからなのかもしれません。

 

そうやって夏に起こった出来事について、トロンコが考えながらメモノートにそのことを書きつけていると、ニューヨークにいるボンクから電話がありました。

ビーチでメモノートを使おうとしたら、あまり使う気がしなかった、何とかならないか?と言います。

黒は夏の色ではないとボンクは言う。確かにその通りだとトロンコも思いました。

まさかビーチ用の蛍光色のメモノートを作るわけにはいかないし・・・。トロンコの夏の、海のイメージの色とは蛍光色だったのです。

トロンコが若い時、泳ぎに持っていくものは何もかも蛍光色だったことを思い出しました。

トロンコは、ビーチで美女を2人ほどはべらせてくつろいでいるボンクを思い描きました。

いつも楽しそうにしているけれど、実は深い事情があってニューヨークを離れることができないボンク。

普通ではないスペシャルなメモノートをトロンコも作りたいと思いました。

美女をはべらせているボンクにも似合うメモノートを。

 

トロンコはフィレンツェのクアドリフォリオご夫妻の工房をまた訪ねました。

丘を駆け下り、フィレンツェに向かう飛行機に飛び乗りました。

クアドリフォリオのご夫妻はいつもトロンコを笑顔で温かく迎えてくれます。

まだ出会ってそれほど日が経っていないのに、こだわりなく話しかけてくれる二人をトロンコはとても嬉しく思っていました。

世代が違ったり、立場が違うとどうしても構えたり、装ったりしてしまいます。

でもそういうことは何の意味もなくて、人に対する時はありのままの自分でいるべきで、それによって相手もこだわりをなくしてくれるということを二人と出会って、改めて思いました。

 

クアドリフォリオの工房には、実は普通の牛革以外にたくさんの変わった革があります。

特に爬虫類の革は、ご主人がオーダー靴のワンポイントで使うことが多いからストックしているものですが、実は相当に爬虫類系の革が好きなのではないかと思っています。

そんな特別な革を見ながら、トロンコは自分の好みに合いそうなもの、ボンクの好みに合いそうなものを選びました。

ボンクのように多くの人のリーダーシップをとって多くの人と一緒に仕事をするような人が使えそうなイメージの、特別なメモノートになりそうな革を選ぶことができたと思いました。

 

古い時代の建物が並ぶフィレンツェの街外れにあるクアドリフォリオの工房をトロンコは出ました。

まだたくさんの人が楽しそうにブラブラと歩いています。

フィレンツェに来るまで、戦場となった町を巡っていましたので、重苦しい気持ちになっていましたが、

二人と会ったことで、とても明るい気持ちになりました。

トロンコは清々しい良い気分に浸りながら街を歩いていきました。

 

 

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トロンコパリのオープンカフェで

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トロンコはパリを訪れていました。

島国からフランスまでは海峡をひとまたぎ。本当にあっという間についてしまいます。

でもトロンコはフランスを、このパリを訪れたことがありませんでした。

トロンコにとってパリはあまりにもお洒落すぎるし、誰もがかっこ良すぎると思っていました。

そしてあまりに都会すぎる。

でも心境の変化もあって、パリを訪れてみました。

ヨーロッパの大都会の街中独特の細い路地を歩き回りました。

パン屋、雑貨屋、レストラン、あるいは万年筆の専門店など、パリにあるお店はどれもとてもお洒落でそれぞれが世界観を持っている。

どの店も誰の真似もしてない、自分たちが今まで生きてきた経験や美学を表現した素晴らしいお店ばかりでした。

それらのお店はお店の人が仕事を楽しんでいることが伝わってきて、こちらも楽しい気分になります。

街中を歩き回って、セーヌ川岸にある古書の露店街をはしごした後、カルティエ・ラタンのカフェのオープン席でお茶を飲みながら仕事をしようと思いました。

数冊の古書の収穫で重くなった鞄を置いて、カフェのオープン席で一息つきました。

7月のパリは暑い。それでもカフェのオープン席は観光客や地元の常連さんでいっぱいです。

トロンコはまわりにいる人たちを観察しながら仕事を始めました。

一人で本を読む人。数人でおしゃべりする人。

その中でトロンコはある男性が気になりました。

その男性はものすごい集中力で他人を寄せ付けないオーラを出しながら、黒いノートに鉛筆で書き物をしていました。

 

「同業者かな?」

 

同じ仕事をしている人同士は直感で分かりますが、その人は誰が見ても物を書いて生活している人だと思いました。

とても大柄でがっしりした体格で、たぶんアメリカ人だろう。

先ほどギャルソンたちと親しげに話していましたので、常連だと思いました。

優しいタフガイといった感じの顔つき。

どこかで見たことがある人だと思いましたが、トロンコは忘れて自分の文章の中にのめり込んでいきました。

ある程度の目標まで書くことができて、体を伸ばした時にそのタフガイも顔を上げてトロンコの万年筆とテーブルに置いていた持ち物をとても良いねと褒めてくれました。

 

トロンコはその時ボンクと作ったステーショナリーたち、サマーオイルのメモノート、原稿用紙やノートを入れる革封筒、ペンケースSOLO、地図柄のキャパス地のダイアリーカバーなどをテーブルの上に広げていたのでした。

トロンコは新しくできたばかりのメモノートの原稿用紙罫の紙を見せました。

どんどん書き千切っていくメモ用紙に原稿用紙の罫線が入っているのは、不思議な感じがするかもしれませんが、このメモ帳で文章を作るトロンコにとって、ある程度文字数が把握できる原稿用紙罫はぜひ作りたいと思っていたものでした。

少しずつ手を加えて、より良い、面白いものにしていく。

新しいものを作るのも楽しい作業ですが、こだわりを込めてモノを熟成していくのも終わりのない楽しい作業なのです。

アルファベットを書くタフガイにとって、原稿用紙は不要ですが、書く気分を盛り上げてくれる模様の入ったメモ帳として面白いと思ってくれたようでした。

「きみたちのステーショナリーと同じように、文章を簡潔に、でも上質なものを書くように私も心掛けている」とタフガイは言いました。

 

きっと世界中を旅しているそのタフガイもトロンコとボンクに近い感性を持っていると思いました。

タフガイが席を立った時、教会の鐘が鳴りました。「あの鐘は誰のためになるのだろう」とトロンコに言いながら彼は路地に消えて行きました。

 

 

*WRITING LAB. サマーオイルメモノート用替紙「原稿用紙罫」は、近日発売予定です。

 

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フィレンツェの美しいペンケース

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オーダーを予定していなかったボンクも靴をオーダーすることになり、トロンコは嬉しい反面、勧めてしまった責任を少し感じていました。

すでにボンクはたくさんの靴を持っていたし、高価なものだけにじっくり考えてからオーダーするべきかもしれないと思ったのです。

でも、その場の勢いと雰囲気にヒョイと乗っかってオーダーしてしまうのがボンクのすごいところだともトロンコは思いました。

 

トロンコの場合、いろんな人の話を聞いて、一人でぐるぐると考えて、やっとオーダーに至ったので、とてもボンクのようにはできないでしょう。

まだ見たことがないけれど、ウエストニューヨークのアパートには靴部屋があるほどボンクはたくさん靴を持っているのです。

でもボンクの粋なところを見ることができてよかったとも思うのです。

 

ボンクはフランスの老舗J.Mウエストンなど有名靴メーカーで何足もオーダーしているだけあって、採寸してもらいながら自分が作って欲しい靴について、クアドリフォリオのご主人と上手に打ち合わせをしていました。トロンコは自分の靴がいったいいくらくらいで出来上がるのかドキドキしていましたが、ボンクは値段の高いクロコを一部分に使ったり、デザインに細かい注文をつけたりしていました。

今まで見たことがなかったかっこいいボンクの一面でした。

 

ボンクの靴の採寸が終わって一息ついていると、クアドリフォリオ夫人がシガーケース型ペンケースを持ってきてくれました。

このペンケースの原型はすでに試作品を何度かやり取りしていましたので、トロンコもボンクも仕様に関しては知っていました。

しかし完成品を見て、トロンコとボンクはそのものに溢れるイタリアあるいはフィレンツェらしさを感じました。

その美しい何色とも言えないような色合いと磨き抜かれた光沢に、二人はこれこそがフィレンツェで作られた革製品だと思ったのでした。

 

この葉巻入れ型のペンケースは二人が今まで見てきたペンケースの中でも最も美しい部類に入るものでした。

フタになる筒と、胴になる筒の入り方の強さ加減は感覚によるところが大きいため、すごく難しいとクアドリフォリオ夫人は説明してくれましたが、クアドリフォリオ夫人が修行していた工房では、シガーケースをいつも作っていましたし、ドイツやフランスの世界的な万年筆メーカーのペンケースも作っていたことがあったそうです。

そんな経験も生かされて、今回のシガーケース型ペンケースが完成したのでした。

 

トロンコとボンクはこの万年筆を大切に1本だけ入れるペンケースを「SOLO(ソロ)」と呼ぼうと決めました。

 

SOLOはこのペンケースに合う万年筆を探して入れたいと思わせてくれるもので、自分にとって特別な万年筆を1本だけ持ち歩くために使いたいと思わせてくれます。

本当に長い時間かかって、何度も試行錯誤したけれど、その甲斐あるものができて本当によかった。

 

トロンコとボンクはクアドリフォリオの工房を後にして、立ち寄ったフィレンツェのレストランで、そのシガーケース型ペンケース「SOLO」に色々な万年筆を入れてみて、それぞれうっとりと眺めていました。

 

 

WRITING LAB. オリジナルペンケース 「SOLO」取扱店

 

*Pen and message. 

 https://www.p-n-m.net/contents/products/WL0007.html

 

 

 フィレンツェの美しいペンケース.jpg

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